2023.08.05
電磁鋼板を制するものが国を制する?JFEスチール・西日本製鉄所が設備増強とキャリア採用強化を進めるワケ
リージョナルキャリア岡山のコンサルタント、瀬川です。
私事ではございますが、今年の2月に父を亡くしまして、父が漁業組合員だったものですから、私が漁業権を相続することになりました。
ということで、あらためまして、リージョナルキャリア岡山の漁師コンサルタント、瀬川です。
さてさて、父から引き継いだ小さな漁船について。
長い闘病生活で放置状態だったもので、あちこちメンテナンスが必要なんですね。「船艇」自体はフジツボを落として塗料を塗ればOKなんですが、問題は「船外機」です。キャブレーター仕様の少し古いものなのでやっかいです。
とりあえず港に出入りしているメカニックのおじさんに修理してもらいましたが、近い将来、買い替えも考えないといけないかもしれません。
とは言っても、新品の船外機なんて高価で買えませんからね。「良さそうな中古があったら情報ください」とメカニックおじさんに伝えたところ、「半導体不足」の影響で中古需要が高まってほぼ手に入らないんだとか。自動車と同じですね。
ニュースやお客さんとの会話の中で半導体不足が話題になることはありましたが、まさか小さなおんぼろの漁船にも影響が出るなんて思ってもみませんでした。
私たちの身の回りにある機器には必ずと言っていいほど半導体が組み込まれており、私たちの生活は半導体に支えられていると言っても過言ではありません。
鉄に変わり、冷戦終結以降、「産業のコメ」と言われるようになったのも納得です。もはや「コメ」という表現でも足りないぐらいの存在になっているように思えます。
一方、鉄は・・・
「鉄は国家なり」「鉄を制するものが国を制する」なんて言われていましたが、この表現も今の時代には合わなくなってきているかもしれませんね。なんとなく、鉄はオワコン、衰退産業なんて思っている人も少なくないかもしれません。
しかし、ちょっと待った!!!
なんとなく捉えている「鉄」には用途に応じて多種多様な形状や性質(特性)があり、実は、ある特殊な性質を持つ鉄(正確には「鋼」)の需要が爆上がりしていることをご存じでしょうか?
その鉄(鋼)の名は「電磁鋼板」です。
(画像出典:JFEスチール株式会社HP)
電磁鋼板の特性についての詳しい説明は割愛しますが、簡単に言うと、「電気を流した時に強い磁力が得られる」という特性を持っています。
そんな電磁鋼板が一体なぜ需要爆上がりなのか?それは、電磁鋼板が電動モーターの部材として必要不可欠であり、自動車の電動化による車載モーター市場の拡大の影響を受けているからです。
少し古いデータですが、2020年6月に矢野経済研究所が発表した車載モーターの世界市場を調査したレポートによると、"2018年の約32億個に対し、2030年には約56億個規模に拡大する
"と言われており、その拡大の影響を受けて、2025年以降に電磁鋼板が不足する可能性がある、というのです。
※参照:EE Times Japan「車載モーター市場、2030年に約56億個の規模へ」
そのような背景から、世界最大規模を誇るJFEスチールの西日本製鉄所(倉敷・福山)でも電磁鋼板の増産に向けた追加の大型投資を決定しています。
"追加"というのは、もともと2021年に約490億円の投資決定をし、間もなくその設備が稼働開始するところですが、今回新たに、2026年の稼働を目標に追加で500億円規模の投資が決まったわけです。
これにより、電磁鋼板の生産能力は今の3倍に。現在、西日本製鉄所では積極的なキャリア採用も行われています。
※参照:JFEスチール株式会社ニュースリリース「西日本製鉄所(倉敷地区)電磁鋼板製造設備の追加増強について」
一般の方にはまだほとんど知られていない電磁鋼板。望ましい形ではありませんが、「電磁鋼板不足」によって数年後には多くの人がその存在を知ることになるかもしれませんね。