微生物の持つ無限の可能性を産業分野に技術応用し、循環型社会に貢献する。
株式会社フジワラテクノアート
専務取締役 狩山 昌弘
1956年、岡山県岡山市生まれ。大阪大学卒業後、大手自動車メーカー入社。1985年に株式会社フジワラテクノアートに入社し、日本の伝統食品である醤油、味噌、清酒、焼酎などの製造設備・プラントの大型化、自動化、製造プロセスに関する研究開発に従事。また新規粉体殺菌装置の開発、糸状菌による固体培養システムの開発などに従事。2006年、取締役(開発・技術部門)に就任、2020年より現職。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
匠の技を自動化し国内シェア8割。
当社は、醤油や味噌、日本酒、焼酎などの醸造食品の製造工程で使用される機械・プラントを開発・製造しています。もともと醸造食品づくりは原料処理、麹づくり、仕込み、発酵、圧搾など、各工程に多くの人手や匠の技を必要とします。当社はそれらの工程の自動化技術に強みを持ち、特に醸造食品の品質、生産性を左右する麹づくりを自動化した自動製麹(せいきく)装置では国内の機械製麹能力シェア8割を誇ります。
単品の機械納入から工場の建屋・製造設備一式を請け負うトータルエンジニアリングまで、醸造分野においてお客さまの要望に幅広く対応できる点も当社の強みであり、現在では日本全国約1500社、海外27カ国に設備の納入実績があります。2023年で創業90年を迎えました。
私の経歴をお伝えすると、地元が岡山で大阪の大学を卒業後、自動車メーカーに就職して関東で働いていました。自動車メーカーでの仕事にはやりがいを感じていたのですが、実家が農業をしていたので、将来的にそれを継ぐために岡山へ戻ることにしました。今から30数年前、30歳を控えた頃ですね。ですから私も、Uターン転職でフジワラテクノアートに入社したことになります。
ビッグプロジェクトの完工により醸造技術領域で確固たる地位を確立。
私が入社した当時の会社規模は現在の半分以下でしたが、ちょうど先代の社長が「独自製品を開発していきたい」ということで、それまでは設計部門の中にあった開発部門を独立させ、研究開発に力を注いでいくというタイミングでした。
そのため、私も最初は設計として入社したのですが、半年から1年ぐらいのタイミングで開発部門に異動しました。同時にCIにも取り組んだり、会社としての転換点だったように思いますね。
先代の社長も技術者でしたから、どこでもやれることではなく、自分たちにしかできないことをやっていきたい、そういう思いがあったのでしょう。
そこから回転式自動製麴装置など、新しい開発製品も出てきて、業界の中での注目度が少しずつ上がっていきました。着実に納入実績を重ね、醸造業界から認められてシェアを高めていったのが2000年代に入ったぐらいからです。
特に、2005年に大手焼酎メーカーから芋焼酎の製造工場の設備一式を任せていただけることになり、これが一つの転機になりました。
建屋の設計も含めた大規模なプロジェクトでしたが、このプロジェクトを完工できたこと「“醸造工場・設備に関係することはフジワラさんに頼めば上手くやってくれる」という評価が浸透していったと思いますね。
世界に拡がる日本食・日本酒。日本の醸造技術。
日本は人口減少・少子高齢化社会ですから、醸造業界を含む食品関係は飽和感があります。そのため、今後は日本国内で新しい工場を作るといった大規模な投資は、そう多くはないかもしれません。
一方、海外を見ると大きな可能性があります。日本食が海外でもかなり受け入れられていますし、日本酒は非常に人気があります。実際に日本から海外への日本酒の輸出量を見ると、右肩上がりで大きく伸びていますし、将来的には日本酒がワインのような位置づけまでいけるポテンシャルはあると思います。
日本国内に多くのワイナリーがあるように、海外にも日本酒を醸造する蔵が当たり前のようにある時代がくるかもしれません。実際、アメリカや中国、ヨーロッパで日本酒の醸造蔵が少しずつ増えています。これは我々には追い風ですし、お客さまの海外展開を積極的に支援していきたいです。
また、中国や東南アジアは日本と同じように醸造文化があり、醸造プロセスも日本と似ていることから、我々の機械・設備との相性もいいんです。例えば、中国は人口比で単純計算しても10倍の消費量ですから、機械の大型化が重要なテーマです。我々は早くから大型プラントの輸出に着目し、技術の蓄積と着実に実績を積み重ねてきました。中国や東南アジアにおける展開にも、より力を入れていきたいと考えています。
2050年の私たちの姿。
当社は2016年に人事制度を抜本的に見直し、その過程で企業理念も見直しを行いました。我々がこれから何を目指してどんな会社にしていきたいのか、漠然としたものはありましたが、具体的にどんなことをして社会に貢献していくのか、議論に議論を重ねて作り上げていきました。
そして2019年に、2050年の自社をイメージし、中長期的な成長方向を描いた「開発ビジョン2050」を策定。「醸造を原点に世界で『微生物インダストリー』を共創する」と掲げました。
その対象は、単に食品や醸造だけでなく、例えば家畜の餌となる飼料。これに微生物を使うことで機能性が上がり、家畜の品質や生産性を良くすることが可能です。
また、微生物のバイオプロセスを高度に応用利用することにより、エネルギーやバイオプラスチックなどの有用素材を生産することが可能です。化石資源に頼らない、バイオ素材生産の産業化に積極的に取り組んでいます。
日本が世界に誇る微生物「麹菌」。
日本が誇る微生物である「麹菌」には大きな可能性があります。いろんな分野で活用する研究が進んでおり、海外からも高く評価されています。例えば、麹菌自体の菌糸で肉のような触感を出せるので、代替肉を作ることができます。
その他にも、酵素メーカーにも当社の麹を作る機械を納めていて、固体培養技術という麹を作るプロセスで酵素を生産することができます。「酵素」と聞いても、多くの方はピンとこないかもしれませんが、酵素は現代人の日々の暮らしに大きく貢献しています。
例えば、食品や飲料はもちろんのこと、洗剤や胃腸薬など、身近なところで広く使用されています。酵素の世界的な需要は大きく、今後も伸びていくと予測されています。
本当に幅広いテーマがあり、世の中でまだやったことのないことに取り組んでいくので、それをやり遂げるには我々だけの力では難しい。それは技術的にも資金面においてもです。そのため、ビジョンに共感をしていただける人たちと一緒に共創し、そういった持続可能な世界をみんなで作っていきたいと考えています。
世界が直面する課題克服を私たちとともに。
採用でも同じことが言えます。我々が目指すところ、実現したいことに共感してもらえる人に来てほしいですね。
機械やプラントを作っていますから、機械設計やプラントエンジニアは当然ですが、お伝えしたとおり微生物の知識がある人材も必要です。
社内にもその関係のドクターが数人いますが、発酵学や微生物学などを学んだ人を採用することで、より厚みのある組織を作っていきたいですね。
また、知識や経験と同じぐらい重視しているのがスタンスです。外部パートナーとの共創はもちろんのこと、社内においても、我々は一人で仕事をしているわけでありません。
社内外のいろんな関係者とコミュニケーションを取りながら結果を出していかないといけないので、協力しあって一緒に創り上げていくというスタンスが必要となります。
そして、我々は大企業ではありませんので、限られたリソースを最大限に有効活用することが重要です。その意味では、自分の業務や役割を限定することなく、幅広いことに積極的に取り組んでくれる方がいいですね。
そういった方と一緒に、醸造だけでなく、食糧、飼料、エネルギー、バイオ素材など、世界が直面する数多くの課題克服に貢献できるように取り組んでいきたいと思っています。