デザインを経営資源の一つと捉え、企業の成長など目的達成へと導く。
株式会社アイディーエイ
代表取締役会長 井上 勲
1948年2月3日生まれ
岡山県出身。デザイン会社勤務を経て、1976年4月にいのうえデザイン(現、株式会社アイディーエイ)を創業。デザインマネジメントの考え方を柱にクライアントの問題解決に従事。2010年に代表取締役会長に就任。また、介護事業を展開する株式会社アイリーフを2002年に設立。現在に至る。
※所属・役職等は取材時点のものとなります。
デザインに対する概念が大きく変わってきている
「デザイン」と聞くと、皆さんはどのようなモノやコトを思い浮かべるでしょうか?おそらく多くの方は、洋服や車、商品やブランドのロゴマーク、パッケージなど表面的なビジュアルを思い浮かべるのではないかと思います。もちろんそれらはデザイナーによってデザインされたものですし、当社もロゴマークやパッケージのデザインを行っています。
しかし、それはデザインの一部である最終的な表現であって、当社はデザインというものをもっと広い概念で、そしてもっと深いものとして捉えています。それは、デザインを企業の経営資源の一つとして捉え、目的の達成や問題解決のための手段として有効活用していくということです。
一昔前は、企業の経営資源と言えば「ヒト・モノ・カネ」と言われていました。近年ではそこに「情報」「時間」を新たな経営資源として捉える考えがありますが、我々はさらにそこに「デザイン」を経営資源として捉えることを提案しています。このことからもお分かりいただけるかと思いますが、当社は「デザイン会社」であると同時に、デザインによって会社経営を目的の達成へ導く「経営コンサルティング会社」でもあるのです。
デザイナーがデザイナーとして生き残っていくために
当社には多数のデザイナーが在籍していますが、デザイナーにもデザイン理論だけでなく経営や事業、セールスやマネジメントのことなどさまざまなことに興味関心を持ってもらいたいと思い、そのようなことを学ぶ勉強会など頻繁に行っています。
それは、当社の事業が顧客の経営と密接に関係しているということと同時に、デザイナーがデザイナーとして生き残っていくために、経営ノウハウを身に着けていく必要性があると感じるからです。
随分と前の話になりますが、私がデザイナーとして駆け出しの頃、東京には約6,000の写植会社がありました。しかし、そこにアップル社のマッキントッシュが登場し、3年でほとんどの写植会社が無くなってしまいました。
ひとつの業種が3年で消滅するのを目の当たりにし、コンピュータの恐ろしさを肌で感じました。コンピュータの登場で消えていった優秀なデザイナーも多くいます。
最近ではAIが話題となっていますが、AIの進化・発達はデザイナーにどのような影響を及ぼすのでしょうか。これからのデザイナーには、顧客と対話する能力が求められるでしょう。その点からいっても、経営ノウハウやさまざまな理論を学ぶ必要性があると感じます。
社員の成長があるからこそ会社が成長し、顧客に役立てる
当社は昨年、ビジネスデザイン事業部という部門を立ち上げました。40年の実績の中で蓄積してきたノウハウをベースに、コンサルティングを行う部門です。
例えば、価格競争の激化で年々経営環境が悪化する印刷業界向けに、「営業力強化」「デザイン力強化」「ブランディング」という切り口でノウハウを提供し、収益性アップに貢献しています。また、医療業界・介護業界向けにも同じような取り組みを行っています。
実は、ビジネスデザイン事業部は、私ではなく当社の社員が発案・事業化したものです。また、別の社員はある外資系企業のブランディングに携わる機会を得て、その機会によってブランディングのノウハウを身に着け、今では当社のデザインコンサルティング事業を牽引してくれています。会社を新しいステージに押し上げてくれた社員たちです。
先程、さまざまなことに興味関心を持ち、学ぶ必要性があると言いましたが、活躍する社員に共通するのは、自分自身を高めていきたいという成長意欲があることです。また、そのために真面目に学ぶ姿勢がある人。そして、社会や経営環境が大きく変化する中で、それに対応していく柔軟性も大切です。ベースにあるのは素直さかもしれませんね。
変幻自在に形を変え、環境に素直に適応する水のようにありたい
これからの事業展開ですが、軌道に乗ってきたビジネスデザイン事業を加速させ、一社でも多くの顧客の課題を解決すると同時に、デザインを中心としたコンサルティングノウハウをさらに蓄積していきたいと考えています。ただ、事業ありきではなく、あくまで原点は顧客の経営をより良くしたいという想いです。
当社の経営理念は「水は方円の器に従う」ですが、これは変幻自在に形を変え適応する水の無理のない姿、柔軟性を表現しています。我々も水のようにありたい、ということです。
社会や経営環境が変われば、顧客が抱える課題も当然変わっていきます。それを捉え、解決策を提示するには、我々も変化し続けないといけません。生涯勉強ですね。
冗談ではなく最近、算数を勉強しているんですよ。デザインは感性と思われがちですが、感性の前に理論が大事ですからね。理論がわかってはじめて感性が熟成するんです。理論がなければそれは感性ではなく個性です。
顧客のために、共に感性を磨き高め合っていきたい。それに共感してもらえる人と一緒に仕事をしていきたいですね。